
2018年12月、早稲田大学基幹理工学部表現工学科橋田研究室と文化構想学部ドミニクチェンゼミとの協同展示 “Aging展”の出展作品。
生き物とは何だろう。生物と非生物の境目に関する議論は古くからなされてきたが、生物と非生物の定義の狭間に存在する無数の概念を我々は何と呼べばよいだろう。遠い未来、技術の進歩によって人間が肉体を捨てる日が来るならば、身体を乗り移る意思だけの存在になった人間を生き物と呼ぶことはできるだろうか。 物質としての実体を持たない、日常の仕草や言葉・規律・風習。普段これらが「生きている」と感じることは少ない。しかし人から人・モノからモノへ住み移り、同一性を保ちながら生き永らえたり増殖する様子は生き物とも共通点を持つ。本作品では、多様な肉体なき「生き物」たちを捕獲するべく、我々が開発した様々な「檻」をお披露目する。本作は、以下の4つの生き物の標本である。
作品制作:鈴木敦也 田中陽 千葉一磨 フラハティ陸
展示URL:https://aging-exhibition.cc/kotohaikteiru
サンプル1:oJiGi
可愛らしい動きをつい真似してしまったり、長年一緒に暮らしている夫婦や親子はふとした仕草まで似てくるといったことがあるが、これらも皆生き物たちの仕業である。そのうちの1つ、“お辞儀”を捕まえるべく、我々はお辞儀ケージの試作を行った。
体験者ははじめに指定の場所に立ち、お辞儀を模倣する生き物”oJiGi”に対してお辞儀をする。その体験者のお辞儀はKinectによりキャプチャされ、首と腰の角度をTouchDesignerを介してArduinoに送信される。oJiGiは記録された上記のデータにならい、次の体験者に向かってお辞儀を行う。次の体験者はoJiGiからのお辞儀にお辞儀を返すことで、oJiGiを通じて体験者どうしのお辞儀の連鎖が生まれる。
サンプル2:ハンドシェイク
記憶やアイデア、仕草、言葉、決まりごとやルール、記号、文字…これらはみな人間が作り出した概念にすぎない。しかし、時間エネルギーがそれぞれに吹き込まれることで、これらの概念は生き物として蠢きはじめる。人間同士で交わされる約束や決まりごと、言葉は、人から人へ継承されてゆく中で環境に応じて成長し、姿を変えてゆく。2人の間で決められたハンドサインは、繰り返し使われ続ける過程で成長する。
ディスプレイには前の体験者のハンドシェイクが再生される。次の体験者はその動画を観た後に録画モードに切り替え、5秒間自分のハンドシェイクを録画する。その際、体験者の手の動きはLeap Motionによって取得され、ハンドシェイクロボットがリアルタイムでその動きを再現する。こちらも体験者が連なることで、ハンドシェイクの伝達が行われる。
サンプル3:#RuleFace
我々の顔には伝染性の生き物が住み着いていることが判明した。長年親しんでいるペットと飼い主は顔が似てきたり、魚屋さんが魚のような顔をしているという、巷で叫ばれる仮説もこの発見により裏付けられた。彼らは時に強力な繁殖力と環境適応能力を備え持つことがある。強いrulefaceはヒトの世界では“魅力的な顔”とされ、人間と持ちつ持たれつの関係を築いている。
体験者は前の体験者の顔画像のうち1つを選択し、それを真似る。その再現度が高くなるにつれて、体験者の顔は前の体験者の顔に近づき、新たに写真が撮影される。体験者が誰のどの顔を真似たかが記録され、それらが木構造として独自に制作したサイト、および、Twitterのスレッドに反映される。また、機械学習を利用し、体験者の顔に一番適した絵文字が添えられる。身体、手に加えて顔の伝達による作品である。
サンプル4:Time Domain Centipede
計算機の中で初めて発見された生き物である。計算処理により生み出された認識と実物との間に生じた誤差を生命エネルギーとして活動する。
ムカデの先頭の脚にはARマーカーが取り付けられており、それらが左右に平行移動するWebカメラによって認識されると、各関節が動くように設定される。また、作品後方にはディスプレイが設置されており、ディスプレイ画面が合わせ鏡のように無限に連続する。その姿はまるで無数の脚を生やすムカデのように見える。